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第171回『アカトンボ』
2006年2月6日

初めて名前を知った昆虫が「フウセンムシ」
であったことを前回記した。
そして、「フウセンムシ」といえば父の顔が浮かぶ。
二番目に覚えた昆虫の名前は
俗称「アカトンボ」である。
これもはっきりとした記憶がる。



5歳の時である。
当時長野市内に住んでいた母方の祖父が
虫垂炎で入院したと知らせがあり
母に連れられ、見舞いに来た。

母と叔母に連れられ病院までの道すがら、
橋の手すりに止っているアカトンボを夢中で採った。
今考えると晩秋で、おそらく気温が低かったのであろう、
動きが鈍く、5歳の子供にも、
手づかみで簡単に捕らえることができたのである。

叔母が近くの店で紙袋を貰ってきてくれたので
十数匹も捕えて紙袋に入れ、
気が済み病院へ向かった。

病室へ行き祖父に見せようと紙袋を開けたところ、
アカトンボは次々と飛び立ち
明るい窓の方へ飛んで行き、
やけて少し黄ばんだカ-テンのあちこちに止った。

67年前のその情景、それぞれのアカトンボが
止った位置まで、今でも鮮明に記憶にある。
記憶というのは不思議なもので、
この場面はこれだけ鮮明に記憶しているのに

物心が付いておそらく初めての
長い汽車の旅にも拘らず
途中のことなどは何一つ覚えていない。
昆虫の生態写真を生業にして、
既に43年になるが、
毎年アカトンボを見るとついシャッタ-を押す。

従ってアカトンボの写真は、
おそらく100点くらい保存されていると思う
そのくらい、彼には魅力がある。

虫嫌いの母親や若い女性でも、
「アカトンボ」を嫌うことはあるまい。



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