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第36回「名刺」2004年5月24日



昆虫の絵を描き始めて最初に描いたのが
「ナナホシテントウムシ」であった。
なぜか好きな虫である。

昆虫の生態写真を生業として、独立した折、
名刺の肩書きをどうしようか困った。
写真を撮り始めて二年や三年で、肩書きに
「写真家」と付けるほど、おこがましくない、
かといって、昆虫研究家というのも、しっくりこない。

そこで、肩書きの代わりに、
ナナホシテントウのイラストを
名刺の中央やや上に置き、
下にラインを一本入れ、その下に名前を入れ、
下段に住所、電話番号を入れた名刺を作った。

名刺を渡す相手は殆ど初対面の人である。
テントウムシの名刺を渡すと殆どの人は、珍しそうに、
長い事見つめて、
「テントウムシですね}と尋ねるように云う。

それが初対面の相手との
コミュニケ-ションの発端にになり、
初対面の堅苦しさがほぐれ
その後スム-ズに仕事の話の本題に入れ、
大変役に立った。

時に既知の友人にも
名刺が代わったからと言って渡す事もある。
すると、昆虫の事を知っている相手で、
しかも口の悪いのは、
「おまえがナナホシテントウ?」
と云いながらにやにや。

それは「ナナホシは益虫だよ」ということ、
「ホシが三個少ないのでは・・・」
という事を云いたいらしい。
ホシを三つ加えると「トホシテントウ」という
害虫になるからである。

鋭い!
こんな冗談が云い合える相手は楽しい。

こちらが、ビックリしたのは、
名刺をつくづく見ながら
「南京虫の名刺は珍しいですネ!」
と言われた時で
なんと返事をしたら良いのか困った。
案外、相手は自分では「テントウムシ」
と言ったつもりなのかもしれない。

この名刺は他にも楽しみがあった。
まだカラ-の名刺など無い時代であったから、
印刷は当然スミ一色である。

相手が見ている前で、橙色や赤のマジックペンで
彩色をしてからお渡しする、
この相手は女性に限ると言うより
素敵な女性に限定していた。

名刺の大きな役割は相手に自分を知ってもらい、
覚えていてもらうためであるから、
より印象深いほうが良い。
やたら肩書きを並べたてた名刺を使う人がいるが、
あれは、自分は「愚か」であると言う事を
強く相手に伝えているようなものである。

同じ愚かでも、
相手によって色を付けたり、話題を提供し、
楽しむ方が罪は無い

因みにテントウムシについて一言。
「ナナホシテントウ」は、さまざまな植物につく
「アブラムシ」を主食にしているので
人間にとって都合が良い虫

「トホシテントウ」は、
ウリ科の植物の葉を食害する。

28個もホシがある
「ニジュウヤホシテントウ」という種がいて、
「ナス、トマト、ジャガイモ」など
ナス科の葉を食い荒らす




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